岡山理科大学とモンゴル科学アカデミー古生物学研究所、モンゴル国立大学の研究者らからなる国際共同研究チームは、モンゴル北部サイジュラハ地域で約70年前に一度発見され、専門的な調査が行われないまま所在が不明となっていた恐竜足跡化石産地を見つけ出し、本格的な調査を実施しました。その結果、いずれも大型の植物食恐竜(竜脚類)と肉食恐竜(獣脚類)の足跡が同一の地層面に保存されていることがわかり、当時の大型恐竜の生息がモンゴル北部まで及んでいたことを証明しました。
4月2日、研究チームの石垣忍・岡山理科大学恐竜学博物館名誉館長と、藤田将人・恐竜学博物館長(恐竜学科教授)が同大で記者会見して発表しました。
モンゴルは世界五大恐竜産出国の一つですが、産出化石の多くは後期白亜紀(7千万年~9千万年前頃)のもので、白亜紀前期の恐竜化石(1億~1億2千万年前ごろ)はハルピミムス、プシッタコサウルス、ザヴァケファレ、チョイロドンなど小~中型のものが中心で産出量も限られたものでした。また白亜紀前期の足跡化石は、確たる化石の発見はないとされていました。
実際に今回足跡化石が発見されたサイジュラハにおいても70年前にモンゴルの地理学者が「恐竜の化石を発見」という2ページの報告を出しているものの、専門的な記載や詳しい産地情報もなく、再調査されずに場所も不明になっていました。
2024年にモンゴル科学アカデミー古生物学研究所と岡山理科大学共同調査隊がこの産地の再発見と詳しい専門的調査を目標に、現地の人々の協力を得て、調べたところ、幸いなことにその場所を特定し、大型の獣脚類と大型の竜脚類の足跡を発見しました。さらに2025年に詳しい調査と地質調査を行いました。
この産地には白亜紀前期(約1億2千万年前)の巨大な湖の堆積物であるシネフダグ層が広がっています。深い湖底に堆積した黒い細かな粘土層の中に、薄い砂層が挟まれることがあり、それは湖面が下がった時に堆積したと考えられます。今回の足跡化石は、そのような砂層の表面が水面上に現れ、そこを当時この周辺に住んでいた恐竜たちが歩いて形成されたと考えられます。
1億2千万年前頃の地球は非常に温暖な環境で、被子植物の進化が生態系を激変させていく中、アジアの恐竜が北米へと進出していった時代です。モンゴルは東アジアと北米の動物相の比較上、重要な場所ですが、白亜紀前期の化石の発見例が乏しく、北米とアジアをつなぐ生態系変遷史研究の課題となっていました。ですので、今回の発見は白亜紀前期のモンゴルに大型の竜脚類と獣脚類がいたことを示し、極東ロシアから北米地域と、中国・韓国・日本との間の生態系変遷史研究に大きく寄与するものです。
発見された足跡化石は31個で、首と尾の長い大型竜脚類(全長15m以上の植物食恐竜)の2頭分の足跡と、大型獣脚類(全長8m以上の肉食恐竜)の5頭分の足跡です。
竜脚類の2頭はほぼ同じ大きさ(後ろ足跡の長さ約70cm)で、2頭の足跡がほぼ重なるようについていました。この事から1頭が歩いた跡、その同じところをもう1頭が少し遅い速度で通ったことが復元されました。このように先に動物が歩いた跡を別の個体がたどる例はゾウなどでも確認されています。
また、前足には、原始的な特徴である内側に突出した第一指(親指)の爪の痕と派生的な特徴である軟部パッドが残されていました。歩いた跡(行跡)の左右幅は広く(ワイドゲージ)、いわゆる「がにまた」的な足の運び方でした。ティタノサウルス形類に属する竜脚類による印跡と考えられます。
獣脚類の足跡は、最大のものの長さが57cmに達します。指の開き方が広く、歩いた方向はランダムで、集団的な歩行の証拠はありませんでした。中国・韓国・日本にはこの時代の大型捕食者の証拠がありますが、モンゴルや東ロシアからは証拠がありませんでした。したがって今回発見された大型獣脚類の足跡化石は大型の獣脚類が北のこの地域まで分布を広げていたことがわかりました。
竜脚類の大きさは全長15m以上、獣脚類の全長は8m以上と推定されます。
調査地付近には礫混じりの砂層があり、今後の調査で、足跡をつけた恐竜の骨化石の発見も期待されます。今後はそうした骨化石の探査と、周辺の露頭の精査による足跡化石のさらなる発見を目標に調査を続ける予定です。
なお、研究成果は2026年3月19日、国際学術誌『Ichnos』(イクノス)に掲載されました。
■著者
•Buuvei Mainbayar, Zorigt Badamkhatan, Khishigjav Tsogtbaatar (モンゴル科学アカデミー)
•Nymsambuu Odgerel (モンゴル国立大学) •藤田将人, 高崎 竜司, 石垣 忍(岡山理科大学)
■論文情報
•A dinosaur ichnofauna from the Lower Cretaceous Shinekhudag Formation, Mongolia
•掲載誌:Ichnos
•掲載日:2026年3月19日
•DOI:https://doi.org/10.1080/10420940.2026.2645024