「姿勢が悪いよ」と言われても、どこをどう直せばいいのか、よく分からないまま終わる—そんな経験、一度はあるんじゃないだろうか。トレーナーの清水忍さんに話を聞くと、それは教える側にも同じ課題があると言う。うまく伝わる指導と、そうじゃない指導。その差は、実はシンプルなところにあった。
■道具を使えば言葉より早く伝えたい事が伝わる時がある
「傾いているよ」「もう少し真っすぐ」
どんなに丁寧に言葉で伝えても、自分では真っすぐのつもりだから変わらない。
そういう場面が、指導の現場では日常的に起きている。
清水さんが使うのが、アシスティックだ。たとえば腕を真横に伸ばしたとき、肩から手首まで本当に一直線になっているかは、感覚だけでは分からない。でもアシスティックを握れば一目瞭然。肘の高さが肩より上か下かも、アシスティックを肩に当てるだけで正確に確認できる。
清水さんはこんなエピソードも話してくれた。
歩くたびに腰が左に向いてしまっている人がいた。本人はまったく気づいていない。
そこで腰にアシスティックを縛りつけて歩いてもらうと、歩き出した瞬間に自分のずれに気づいたという。
「本来そういう用途の道具じゃないんですけど」と清水さんは笑う。でも、それこそが重要なポイントだ。
道具の「正しい使い方」より、目の前の人に「どう伝わるか」を先に考える。その発想の順番が、指導の質を変える。
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■「なんかおかしい」と感じる力がすべての出発点になる
清水さんが新人トレーナーの研修でよく行う実験がある。
「見学中、気になることがあれば選手に声をかけていい」と伝えると、ほぼ全員が何も言わないまま終わる。
理由を聞くと「何を言えばいいか分からなかった」という答えが返ってくる。
これは知識の不足ではない。そもそも「なんかおかしい」という最初の感覚を持てていないのだ。
清水さんはこれを、指導に必要な3つのステップとして整理する。
【STEP 1】「なんかおかしい」と感じる
【STEP 2】何がおかしいか特定する
【STEP 3】どうすればいいかを提案する
「まずステップ1だけでいい」と清水さんは言う。
うまく説明できなくていい。解決策も分からなくていい。
ただ「なんか変だな」と感じ取れるかどうかそれだけが、最初のゴールだ。
■「わざとヘタに動ける人」だけが本当に体を見えている
研修でよくやる課題に「わざとダメなスクワットを5パターンやってみて」というものがある。スクワットは膝を曲げて腰を落とすシンプルな動き。でもいざ「ヘタに」やろうとすると、ほとんどの人がヘタにできない。
ヘタな動きを再現できないのは、ヘタな動きをちゃんと観察したことがないから。逆に言えば、ダメな動きを正確に真似できる人は、「何がどうおかしいか」を本当に理解している。
「ダメな動きが見えない人は、良い動きも正確には見えていない」というのが清水さんの考え。良し悪しを判断する前に、ただありのままに動きを観察する。その習慣が、じわじわと指導力の差になって出てくる。
■筋肉の名前より先に学ぶべきこと「骨や関節の関係性」
清水さんが専門学校の最初の授業でやることがある。「人間の骨格を3分で描いてみてください」。
正確さは問わない、大まかな位置関係だけでいいと言うと、多くの学生がすぐ手が止まる。
腕はどこから生えているの? 足と体はどうつながっているの?
毎日使っているのに、自分の体の構造をほとんどイメージできていないことに気づく瞬間だ。筋肉は骨を動かすために機能する。その骨や関節がイメージ出来ていないと、テストのための勉強になってしまい、実際に使える学びにはならない。
筋肉の名前を覚えることより、「骨がどこにあってどう動くか」をイメージできる方が先。それだけで、体についての理解がどんどん腑に落ちてくる。
■結局「体を変えられる人」は、何が違うのか
清水さんがトレーナーとしていちばん大切にしているのは「主役は相手」という考え方だ。
どんなに知識があっても、相手に伝わらなければ意味がない。
必要なのは相手が自分事として理解し納得できるよう様々な引き出しを持って、指導を提供し続けられるか。そして、その結果として相手の体が変わるかどうかそれだけを判断基準にする。
「器具がないからトレーニングできない」ではなく「身近にある物を使えばこんなこともできる」と提案できるか。そういう小さな発想の積み重ねが、クライアントの体の変化につながっていく。スポーツをしていなくても同じだ。日常の中で「なんか変かも」と感じたとき、それを流さずに少しだけ立ち止まってみたり、良い悪いを比較してみて見る。
体を見る目と指導の上手さは、そこから育っていく。
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